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無知なクレームに目が点になりました

久しぶりに目が点になるお叱りを受けました。

その日は特別忙しい日でした。
誰も彼もが応対に追われていて、お客様対応はもちろん社外対応、メール対応、FAX対応など。
業務は多岐にわたっています。

おまけに来月から新しい取り組みが始まるので、それらをグループの子たちに展開しなければいけません。
だというのに、現場対応が忙しすぎて資料を読み込んだり展開方法を考えたりする時間がありません。
心の中で悲鳴を上げながら走り回っているときでした。

「ココルさん、緊急9番にお電話です。通番322でメールを送ってるって言ってました」

声を掛けられて背筋が伸びる私。
現在の業務に就いてから一番嫌な瞬間です。

いま抱えている業務を一度すべてストップさせて席に戻りました。
メールを確認し、デスクトップで展開させながらファイルを確認しました。

№322というファイル名のエクセルが見えました。

それを開きながら、保留9番に出ました。
「大変お待たせいたしました。ココルです」
「お疲れ様です、ココルさん」
「通番322開いてます――はい、開きました、佐藤花子様の件でよろしいでしょうか」

エクセルに記載された内容にざっと目を通して眉を寄せました。

戸惑う私の雰囲気を感じたのか、苦笑する気配がします。

緊急9番で取次されてくる内容は「お客様対応してください」というものです。
通常のコールセンターが繋がらないため他の部署に電話をかけ、その部署の判断によって対応依頼が来るものです。

今回のお客様は契約の解約をしたい、というもののようです。
それは別にいいんですが……「え、私たちの契約ではないですよね?」とため息つきました。

お客様対応案件は本社組織で各センタに振り分けするのですが、明らかに弊社で対応するものではない案件に対しても、容赦なく振り分けてきます。

今回のお客様の主張は「●●を解約したい」というもののようです。
主張がはっきりしていて良いのですが、いや、それ、うちの契約じゃありませんから。

保険で言えば、日本生命の契約解約を住友生命に申込するようなもんですよ。
無理ですよね。
会社が違いますから。

保険会社の例えが一番分かりやすそうなので、これで再現してみると、こんな感じです。

「この契約番号って、うちじゃありませんよね」
「それは別の部署でもお話したそうなんです。でも佐藤様は分からないというお話で……別の者から連絡がいくので、それまでの間に、例えば請求書など、どこから請求されているのか確認して頂くように、とは伝えてあるそうです。悪いんですけど、一度応対をお願いします」
「分かりました~……」

それにしても「分からない」ってどういうことでしょう。
私たちの契約ではありませんよ、って説明しているのに「分からない」では意味が通じないと思います。
もしかしたらご年配の方なのかもしれませんね。
少し認知機能が衰えているとか、そういう……。

他部署が聞き取りした契約番号をまじまじと見てみますが、全然分かりません。
うちと同じ業種の会社がいくつあると思ってるんでしょう。
学んでなんていられませんよ、そんなもの。

もし分かっていたとしても、こちらからの案内はできません。
ネットで調べた情報を鵜呑みにして「●●会社かもしれませんね~」と案内することはできそうですが、それは単なる無責任。
契約内容によって問合せ窓口が異なるなんて、良くある話だし、あまり深く対応して「あなたが調べなさいよ」と言われては大変です。ほどほどに切り分け説明して手を引かなければいけません。

……何も分かってそうな、不安そうなご年配の方だったら思わず「お調べします」と言ってしまいそうで怖いんですよね、私の場合。八方美人になりたがるので。でも、ミシン目はしっかり持っておかないと、会社にもお客様にも迷惑かけるので、頑張りたいと思います。

一度応対が入ると今までの業務がすべてストップしてしまう。
他の人に仕事を割り振りする時間もないし、ひとまず一次応対ぐらいは終わらせましょう。

インカムをつけて、別部署が聞き取りしていた佐藤様の携帯へ連絡します。

何度か着信音が鳴るのですが、出ません。
留守番電話にもなりません。
取次票が起票された時間は12:30だったので、もしかしたら相手は仕事の休憩時間を利用して解約の電話をしてきたのかもしれません。
今は13:00間近なので、もし休憩時間が終わっていたら、今日の業務終了時間間際にかけ直すか、または明日になるなぁ。

憂鬱な気分になりながら電話を切ろうとしたところ、相手が「もしもし」と出てくれました。
自分の予想に反してかなり若い、女性の方でした。

「お忙しいところ大変恐れ入ります。佐藤様の携帯でお間違いないでしょうか」

まずは連絡先誤りではないことを確認するため質問。
ちょっと冷たい声音で「そうですけど」と応えてくれました。
私の精神が5ダメージぐらい傷ついたけど、フリーダイヤルから電話しているので不審な電話だと思われてるのかもしれないな、と自分を慰めました。

「本日A部署へご連絡いただいておりましたご解約の件で、ただいまお時間よろしいでしょうか」
「ああ……はい」
「ありがとうございます」

電話をかけた心当たりはあったようで(良かった)、すんなり受け入れて貰えました。
しかし、不審な電話ではないと分かった後も佐藤様の声は硬いままです。
この時点で心臓がバクバクしている私。
コールセンターに勤めていて何を、と思われるかもしれませんが、私はお客様応対が苦手なんですよ……特にこういう、クレームに繋がりそうな内容については。
なぜ私が現在の業務に就いているのか、本当に不思議でなりません。
はやく異動にならないものか。

「早速ですが、A部署から聞いていた契約番号、H11-00001111をご解約されたいとのことで、お間違いないでしょうか」
「ええ、そうです」
「左様でございましたか……別の者からも説明をさせて頂いていたかと思いますが、こちらのご契約ですと弊社では」
「だ~か~ら」

ここで態度を一変させて食い込んでくる佐藤様。
イライラしてますね。
声だけでも分かってしまいます。

「さっきの人にも言ったけどね? 保険の契約なんだからそっちで契約あるはずでしょ? 調べて解約させなさいよ」
「いえ、私たちの契約ではございませんので、お調べすることはできないです」
「どういうことよ。ならどこに連絡すればいいのよ」

すごく上からの物言い、高飛車な感じで、ちょっと私の気持ちは「面倒くさい」に傾いてしまいます。
いかんいかん、そんなことを思ったら声に出てしまう、と慌てて気を引き締めて両手を祈るように握りしめました。
私の場合、両手を遊ばせておくと変なことを無意識にやらかしてしまうので、しっかり祈ります(笑)

「どこの会社なのかは……失礼ですが、最初にご契約された際にご契約内容のお知らせといった書面が届いていないでしょうか」
「そんなのないわよ。見たことない」
「ええと……ご契約された場合は必ず書面を発行させていただいているのですが……紛失されたということですね……」
「一体どういうことなのよ」

イライラと声を荒らげていく佐藤様ですが、私の方が「一体どういうことなの」と問いかけたいです。

「それでは、請求書は届いておりませんか。口座の引き落としとか。どこから請求されているのでしょうか」
「そんなの分かんない。クレジットカードだから」
「ではクレジットカードの明細をご確認いただければと思います」

このお客様だけではないんですが、こういう申告してくる方、まるで当然のように「そんなの分かんない」と言うんですよね。
なんででしょうか。
それだってこっちの台詞ですよ。
私たち貴方の契約管理なんてしていませんので分かりません。
自分の契約なら自分でしっかり管理しろ。

声から察するに、非常に若い方。
30代前半か後半か……それぐらいでしょうか。
話し方とかも、それっぽい。

「ねえちょっと、4年ぐらい前からずっとお金引かれてんのよ。どうしてくれんの。全然使ってないんだけど、お金だけ引かれてさ」

いきなり変な話ことを言い出しました。
そもそも私たちと契約していないんですからね。
どうして分かってくれないんでしょうか。

「どのようなご契約なのかは分かりませんが……通常はご健康でいらっしゃれば、ご利用するときのためにお支払い頂くものかと思いますよ」
「何でそんなこと分かるのよ。やっぱりあんたのところで契約してるんでしょ。さっさと解約させなさいよ」

しまった、余計なことを言ってしまったか。
後悔しましたが遅いです。
挽回しましょう。

「一般的な生命保険のお話を申し上げただけで、決して佐藤様のご契約内容を確認できているわけではございません。誤解を招く言い方をしてしまい、申し訳ございません」
「そんなんで許されると思ってるの」

ああ、これも良く聞く会話ですねぇ。
話しの流れにまったく関係なく、単純に謝罪の単語に食いつく方。
ここで相手のペースに持ち込まれると揚げ足取りで延々と謝罪を要求されるので、さっさと切り上げましょう。

「佐藤様のご契約番号を確認させていただきましたが、弊社で通常発行しているご契約番号の形式とは異なるものでした。弊社でご契約いただいているものではございませんので、恐れ入りますが改めてクレジットカード会社の明細をご確認いただくなどして、ご契約の会社へとお問合せ頂けませんか」

佐藤様は聞こえよがしに大きなため息をついて。
「分かんないって言ってるのに、なんなの。保険会社なんて1つしかないでしょ。どこに電話かけろっていうのよ」
「え?」
「次の請求が来るまでずっと待ってろっていうの? 無駄にお金を払えって?」

……いま、何か不思議な言葉を聞いた気がするんだけど、気のせいでしょうか。
続くお客様の声に紛れてしまって追求できないのが悔やまれます。

「こっちは解約したいの! 保険の契約なんだから、貴方の所しかないでしょう! それとも何、他に会社があるっていうの!?」
「え、はい、そうですよ、あります」

ああ、やっぱり聞き間違えじゃなかったんですね。
ちょっとだけ怯んだ声が聞こえたので、もちろん畳みかけます。

「保険会社は弊社だけではございません」
「どういうことよ。他にどこの会社があるっていうのよ」
「沢山ありますので全てはご案内できかねてしまいますが、住友生命様とか、明治安田生命様とか、アフラック様とかもございます。どことご契約されているのかは分からないです」

そう言ったらいきなり落ち着いた感じで「ふーん」と声が遠くなりました。
あれ? どうしたんでしょうか。

「じゃあ住友生命と一緒にしてんのかな~」

そんな独り言が遠くに聞こえます。
え? え? どういう心情? もしかして携帯画面で何か調べようと口から離してる?

呼びかけようとしたとき、プツッと電話が切れました。
あららら。
もしかして携帯画面で操作を誤って切ってしまったんでしょうか。
私は何も操作していないので、システムの不具合か、お客様から切断したか。

慌てて直ぐまた電話。プツッと一瞬だけ繋がり「佐藤様」と呼びかけ途中でツーツーと切られてしまいました。
えええ。
何かを確認している最中なんでしょうか。
私としては「他のところにかけてみる」という最後の一言が欲しいわけなんですが、いきなり繋がらなくなってしまって、意味が分かりません。

場合によっては後から「なんで途中で切ったのよ」「私は何も操作してないんだからそっちが悪いんでしょう」「折り返しもしてこなかったじゃない」と理不尽なクレームに発展することもあります。

それから10分ほど経ってからまた連絡してみたんですが、着信音が鳴り響くだけで、一向に電話に出る気配がありません。
……そういえば着信拒否とかブロックとかって、相手に分からないよう、相手側は鳴りっぱなしにさせるんだっけ?

さっき、一瞬だけプツッて繋がったときに拒否操作をされたのかもしれません。

自分の言いたいことだけ言って、都合が悪くなったら一言もなく切って、着信拒否。
彼女は私がAI受付だとでも思ってるんでしょうか。
最低限の礼儀、挨拶はして欲しいものですよね。

一応当日の業務終了間際にまた電話してみたんですが、いくら鳴らしても出る気配がありませんでしたので、今回の応対はこれで終了にしました。

お客様が私たちの会社しか頭になかったことにビックリです。

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