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常連のクレーマー

ことあるごとに電話してくるクレーマー、太郎さんを引き当ててしまいました。

「料金のことでお伺いしたいのですが」ととても丁寧に聞かれました。
私で答えられることだったらもちろん答えなければいけません。

要注意人物としてマークされてるお客様だったので、なるべく穏便に終わりたい。
「どのような内容ですか?」と聞いてみました。

すると、いきなり声音を変えてまくしたててくる太郎さん。
訛りがきつく、何を言っているのか分かりません。
「申し訳ありません。もう一度お願いできますか?」
聞き取れた言葉を1つ1つメモしながら内容を繋ぎ合わせ、ようやく彼の言いたいことが分かりました。
しかし、その内容は専門的すぎる内容なので、担当部署に確認しないと詳細が分かりません。
担当部署を案内して終わりましょう。

「そういった内容でしたら料金担当がおりますので、そちらのフリーダイヤル」
「いらねぇよ、お前が答えろよ」

無茶言うな。

そうは思ったけど口に出すわけにはいきません。
全然引く気配がないので、ある程度の概算料金で案内することにしました。
1円単位の詳細ではなく、特定しない大雑把な概算。
ひとまず答えを貰えれば満足するのではないか、という浅はかな判断でした。

太郎さんの言っていることを繋ぎ合わせ、弊社の一般的な料金を確認して説明。
すると太郎さんが「今月はもう締め日過ぎてるから料金は発生しないはずなんだ。なのに、あんたの言ってる金額は増えてる。なんでだ」と突っ込んできました。

ここで私は自分の判断誤りに気が付きました。
クレーマーなのですから、一般的なお客さんと同じに考えてはいけなかったんです。

「申し訳ありません。概算でお話をさせていただきました。詳細について確認されたい場合は担当部署へ」
「俺の料金はもう締め切ったんだろう? この前2万2千円って聞いたのに、何で増えてるんだ」
「詳しいことは担当部署へ」
「そっちにはもう電話してんだよ」

なら何を聞くことがあるんだよ。

「そっちで言われた金額と食い違っているから聞いてるんだろう?」
でも今の問い合わせ内容は料金を知りたいって内容だったよね?
担当部署に言われた内容と、何が食い違っているというのか。

「担当部署で案内されているのなら、そちらが正しいのだと思いますが」
「ならあんたがさっき言ったのは何で増えてんだよ」

ああもう、こいつの罠に嵌ったなぁ。
最低。

「こちらでは詳しく分かりかねてしまうのですが」
「だから、そっちにはもう掛けてるんだって言ってるだろ」
「それでは何をお知りになりたいのでしょう」
「だから、前に聞いたのと、今聞いたのと違っているから聞いてるんじゃないか。あんた馬鹿じゃないのか」

このままじゃ泥沼。
怒られるの覚悟で相手の言葉を1つずつ潰していくしかないか、と、ちょっと焦りながら考えます。
論理的な相手じゃないから、それは助かるんですが、気持ちが萎えるのは仕方ない。

「前に言われたと言いますと、こちらで案内されたという事ですか?」
「そうだって言ってるだろ。何聞いてるんだよ」

 いや、何も聞いてませんが。

「こちらの者から料金のご案内をされたという事ですか?」
「そうだよ?」
「繰り返しになるんですが、こちらで行う料金のご案内は、詳しくは」
「俺はもう料金が出ないって聞いたんだ。なのに締めてるはずの料金が増えてるっていうのはどういう訳なんだよ」
「そういう内容も担当部署へ」
「あ? んじゃいいよ。前の人出せよ、前の人」

おや、太郎さんが押し問答をやめました。
私としては有難いのですが「前の人」に攻撃を向けるわけにもいきません。
太郎さんが言ってる内容は自分のいるセンタでは正確に答えられない内容です。
なので、私たちが案内した概算より、担当部署が案内した内容の方を「正解」と見なしてくれるように説得するしかないんですよね。

実は太郎さんは精神疾患がある方なので、その「説得」がなかなか難しいんですが……。

「お電話を替わることはできますが……失礼ですが、どういったことをお知りになりたいのでしょう」
「は? 前にA子が話した料金と、担当部署に電話して聞いた料金が違うってんだよ」
「それは」
「あんたには聞いてない。なんであんたが出てくるんだよ」
「料金のことですよね」
「そうだよ?」
「料金に一番詳しいのは料金担当で」
「うるさいな。早くA子を出せよ」
「A子もお答えできることは私と一緒です」
「あんたには関係ないだろ。なんであんたが割り込んでくるんだよ」

うーん、私も彼の認識より多い概算額で案内しているんだが、それはもういいのかな。
今、彼の頭の中には「A子と話す」という目的しかないようですもんね。
それが終わったら私にまた戻ってきそう。

「A子の応対状況を確認いたしますので、少々お待ちください」

一度保留にして状況確認。
応対履歴を残すことになってるので、見てみるんですが……彼女も料金センタを案内して終わってるんですよね~。

ちょっとだけ頭の中を整理。
どうしよっかな、と悩みながら……でもまあ、悩んでても待たせてるだけなので、出ますか。

保留解除し「A子は別のお客様と応対中でした」と説明。
「いつ終わるんだよ!」
案の定、怒る太郎さん。
イツと言われてもねえ。
一般的な質問でも回答は難しいよ。

「そのお客様ごとに応対は異なりますので、明言は」
「そんなに長くかかるわけないだろ。だいたい何分だよ」
「長くなるお客様もおります。1時間ぐらい見て頂ければ確実かと」
「はぁ? んなかかるわけないだろ」
「いえ、それはその時のお客様によりますので」
「1つの電話に1時間もかかるってのか。何でそんな嘘つくんだ」
「内容によりますし、1時間以上かかるケースも」
「ならどんなのがあるんだよ」

決して嘘ではないんだけどなぁと思いながら、どうやったら早く切ってくれるだろうかと考えていたら子どもの喧嘩みたいになってきました。

内容について詳細を求められましたが、もちろん太郎さんが納得できる理由はないです。
何を言っても納得しませんからね。
そうですね~、と間延びした声で考えていると「ほら言えないだろ」とドヤ顔(ドヤ声)で。
じゃあな、とあっさり切ってくれました。

どうやらマウントを取れれば満足する話だったようです。
私のストレスはもうマックス状態。
本当に疲れます。

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